Home | 午後10時19分 集中治療室収容。
2009/03/07 14:21 | 印刷

 プロローグ

 平成17年5月21日、午後9時43分、桜ヶ丘消防署に出動要請がかかった。
「はい、119番です。火事ですか?。救急ですか?。」
「助けてくれ。うんと、苦しがっている。」
「救急ですね。落ち着いてください。・・・・奥さんが、背中を痛がって、倒れたんですね。すぐに救急車を向かわせます。」
午後9時44分、救急隊出動。
「意識はありますか。・・・・・そうですか。楽な姿勢をとらせてあげてください。いま、救急隊が出動しました。」

 老女は、その日の昼頃から、腰背部痛が出現し、増悪傾向を認めたため、家人が救急車を要請し、大竹が勤める地方総合病院に搬送された。
緊急CT検査を受け、急性大動脈解離と診断された。当直医から、心臓血管外科のオンコール医師を呼び出すように事務当直に依頼があった。
「心臓血管外科の大竹医師と連絡がとれました。」
「もしもし、ああ、夜分にすみません。今晩の当直医です。74歳の女性なんですが、今、緊急CT検査をやっています。どうやら急性大動脈解離のA型です。」
「わかりました。すぐに病院に向かいます。CT検査が済んだら、集中治療室に収容してください。」

 大竹は、寝室で子供たちを寝かせつけていた妻にそっと近づき、出かけることを伝えた。
「ごめん。病院から呼ばれた。」
「どんなひとが来たの。」
「急性大動脈解離のおばあさん。」
「手術になるの。」
「たぶん・・・・・。緊急手術になったら、朝までかかる。いつ、帰れるかわからない。」
「そう、気をつけてね。大丈夫?。」

 大竹は、部屋着を脱いで、ジーンズに履き替えた。何年たっても、緊急の呼び出しがあるときには、妻は、寂しげな不安そうな顔をしている。上の女の子が起きてきた。
「お父さん、どこに行くの。」
「お仕事で、呼ばれちゃったんだよ。お母さんと弟のことをお願いね。」
「わかった。じゃあね。」
下の男の子も、起き出した。
「お父さん、どこに行っちゃうの? お父さんと寝たかった。」
 下の子は、すぐにめそめそと泣き出した。親の言うことを聞いて、我慢している上の女の子の方がかわいそうなのかもしれない。
「じゃ、行ってくる。」
「いってらっしゃい。」

 大竹は、街灯が照らす暗い夜道を病院に向かっていった。



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